あるきっかけで、知り合った若い男性。
この彼、腕時計ブランドを立ち上げようとしている起業家さん。
その彼に依頼され、ウオッチのデザインをしている。
本当に久しぶりのウオッチデザイン。
何年ぶりだろうか。
元会社でバリバリとデザインをしていた頃から
早や15年以上は経っている・・・・・・
ウオッチブランドを立ち上げようとしている彼と、
オンラインミーティングでのデザインの打ち合わせ。
彼が出してきた既存のウオッチの画像を元に、
私がイメージを膨らませ、イラストレーターでレンダリングを描き、
ラフスケッチを手描きで描く。
それについて、今までも5回ほどミーティングを重ねた。
しかし、そのたびにちょっと違う・・・・もっとこうしたい・・・・
と、彼も絵を見ながらデザインを決めるということが初めてなので
とまどいながらのミーティング。
なかなか決まらない。
業を煮やした彼、いきなり土曜日に
「そちらに行ってもいいですか⁉」とメールが飛び込んできた。
明日(日曜日)か明後日(月曜日)に行きたいと。
まあ、お店も定休日だし、特に予定も入っていなかったから、
「いいですよ」と「返事をした。
日曜日のお昼 和歌山から列車に乗ってはるばる来たゼ。
5時間ほどの旅だったらしい。
オンライン会議では顔は観て話はしていたけれど
直接会ったのは初めて。
お店に招き入れ、挨拶もそこそこに打ち合わせ。
私は、PCをお店に持ち込み、今までのデータを見ながら打ち合わせ。
彼の希望を聞きながら、スケッチブックへラフスケッチを描く。
お昼から夕方6時まで、途中おやつをはさんで
6時間近くみっちりと打ち合わせ。
疲れた~~~~!
しかし、彼、せっかくここまで来たので今日は泊まって
明日も続きをやりたいと言う。
まあ、午前中だけなら大丈夫と。
なので、月曜日の午前中も引き続きの打ち合わせ。
彼は腕時計に関しては、製造の知識は皆無に近い。
こういう形状で、こういう仕上げにしたい、と希望を言ってくる。
しかし、その形状にするには制約がある。
その仕上げは無理。
そんなやり取りが何度か。
その都度、何故それが難しいのかの説明。
具体的に言うと、腕時計の側面に通るスジメ。
これをキレイにカン先まで通すには、ケース側面からカン(足)先まで
面はつながっていないと通らない。
カン(足)が突き刺さったような直カンタイプだと、スジメは通らないのだ。
普通は、側面にスジメを通す場合は、カンは接線でケースに
なめらかにつなげる。
それを絵を描きながら細かに説明をしてゆく。
それは仕方ない。
製造条件なんて、製造を知らないとわかることではない。
私も数十年の経験があるからこそ、わかっていることである。
そんなノウハウ 腕時計業界でしか使えないんだけどね・・・・・
彼は和歌山へ帰って行った。
しかし、この仕事はこれからまだ続く。
デザインはまだ決まっていない。
この仕事、『彼の作りたいウオッチのイメージ』優先だ。
私の作りたいウオッチではない。
いかに彼のイメージを実現するかだ。
絵ならいかようにも描ける。
だが、その先がある。
いかにモノにして、いかに製造するかまで
デザイナーは考えねばならない。
プロダクトデザイナー(工業デザイナー)とはそういうものだ。
だからプロダクトデザイナーは、企画から製造まで全てを知らねばできない
と思ってきた。
単にキレイで、形がいいデザインをすればいいという仕事ではない。
ちゃんと機械が中に入って、
使いやすく、
作りやすく
目標価格に入り、
そして人々が欲しいと思うデザインにする。
これがプロダクトデザイナーだと思っている。
今回、数十年ぶりにそんな仕事をさせてくれた和歌山の彼に
感謝だ。
いい時計ができるといいな。
できたらネット販売をするそう。
その時はまたここで紹介させてもらいますね。
(イラストレーターで描いた正面図のレンダリング)
ラフスケッチ(面や仕上げの詳細を説明)